カスタマイズを増やすほどシステムは使いにくくなる理由

昔の流通システム

シリーズ:【元ベンダーが教える】小売システム導入 成功の法則 第十一回

「今のシステムと同じようにしてほしい」は、本当に正しいのか?

小売システムの導入プロジェクトで、ベンダーからよく聞く言葉があります。

「現在使っているシステムと同じようにできます」

あるいは、ユーザー側から、

「今のシステムでできていることは、全部できるようにしてほしい」

という要望が出ることもあります。

これは、一見すると当然の話です。

せっかく新しい小売システムを導入するのですから、今まで出来ていた事が出来なくなれば、現場は困ります。

しかし、元ベンダー側から見ると、ここには非常に大きな落とし穴があります。

「今できていること」と「これからも必要なこと」は、必ずしも同じではない

からです。

そして、この判断をせずにカスタマイズを増やしていくと、導入したばかりの新しいシステムが、どんどん使いにくいシステムになってしまいます。

今回は、私がベンダー側にいた経験から、この「カスタマイズ」の問題について考えてみたいと思います。


カスタマイズそのものが悪いわけではない

まず、誤解してほしくないことがあります。

私は、

「カスタマイズは絶対にするな」

と言っているわけではありません。

小売業には、それぞれの会社独自の業務があります。

例えば、

  • 独自の商品管理方法
  • 独自の発注ルール
  • 特殊な価格設定
  • 独自のポイント制度
  • 特殊な帳票
  • 独自の物流・在庫管理
  • 法令や業界ルールへの対応

などです。

会社の競争力や業務上どうしても必要な部分であれば、カスタマイズが必要になることもあります。

問題なのは、

「なぜ、そのカスタマイズが必要なのか?」

を十分に考えないまま、要望を追加していくことです。


「今までこうだったから」が一番危ない

小売システムの導入では、こんな会話がよくあります。

現場から、

「今のシステムでは、ここを押せばこうなります」

という説明が出てきます。

すると、

「新しいシステムでも同じようにしてください」

となります。

ところが、ここで一度立ち止まって考える必要があります。

「なぜ、その操作が必要なのですか?」

と聞いてみるのです。

すると、

「昔からこうやっているので……」

という答えが返ってくることがあります。

これは非常に重要なポイントです。

つまり、

現在のシステムの仕様=現在の業務にとって最適な方法

とは限らないのです。

10年前に必要だった処理が、現在も必要とは限りません。

昔のシステムの制約を回避するために作られた機能が、いつの間にか「会社の業務ルール」になっていることもあります。


カスタマイズには「見えないコスト」がある

第9回では、見積書だけでは分からない導入コストについてお話ししました。

カスタマイズにも、同じように見えないコストがあります。

例えば、ある機能をカスタマイズしたとします。

当然、最初に開発費用が発生します。

しかし、それだけではありません。

① 開発コスト

プログラムを作るための費用です。

② テストコスト

通常の標準機能よりも、確認しなければならないことが増えます。

③ 運用コスト

その機能を現場が理解して使わなければなりません。

④ 保守コスト

将来、仕様変更や障害が発生したときに対応が必要になります。

⑤ バージョンアップへの影響

システムを新しいバージョンに更新するとき、カスタマイズ部分が問題になることがあります。

⑥ ベンダー依存

特殊な仕組みになればなるほど、そのシステムを理解している人が限られてきます。

つまり、

「100万円でカスタマイズした」

という話では終わりません。

そのカスタマイズを5年、10年使い続けることを考える必要があります。


カスタマイズが増えると「システムが分かりにくくなる」

もう一つ、大きな問題があります。

それは、

システム全体が複雑になること

です。

例えば、標準機能だけなら、

「この画面で商品を検索して、ここで数量を入力する」

という単純な操作だったものが、カスタマイズによって、

「この条件のときだけ、このボタンが表示される」

「この店舗ではこの処理になる」

「この商品区分の場合だけ別の処理になる」

というように、例外が増えていきます。

すると、現場からこんな声が出てきます。

「この場合はどう操作するんだっけ?」

そして最終的には、マニュアルがどんどん厚くなります。

これは、システムとしてはあまり良い状態とは言えません。


「全部の店舗を同じにする必要がある」と考えすぎない

小売企業の場合、店舗ごとに違う要望が出ることがあります。

ある店舗では、

「この処理が必要です」

別の店舗では、

「うちでは必要ありません」

ということも珍しくありません。

そこで、

「じゃあ、店舗ごとに設定を変えましょう」

となることがあります。

もちろん、必要な場合もあります。

しかし、これが増えすぎると、

「店舗Aではこう動くが、店舗Bでは違う」

という状態になります。

システム管理側からすると、非常に大変です。

新しい社員が入ったときも、

「この店舗は特殊だから……」

という説明が必要になります。

店舗数が増えれば増えるほど、この問題は大きくなります。


「現場の要望を全部入れる」は、本当に現場のためなのか?

ここも、非常に難しいところです。

現場から10個の要望が出てきたとします。

その10個を全部システムに入れることが、本当に現場のためなのでしょうか。

私は、そうとは限らないと思います。

例えば、

  • 1日に1回しか使わない機能
  • 特定の担当者しか使わない機能
  • 紙の帳票をそのまま画面にしただけの機能
  • 現在の業務手順をそのまま再現した機能
  • 本当は業務そのものを見直した方がよい処理

などがあります。

こうしたものまで全部カスタマイズしてしまうと、

「新しいシステムを導入したのに、古い業務をそのままコンピューターに移しただけ」

になってしまいます。

これは非常にもったいないことです。


カスタマイズする前に「3つ」に分けて考える

私なら、要望が出てきたときに、まず次の3つに分類します。

① 絶対に必要なもの

法律・制度への対応や、会社の事業そのものに関わる機能です。

これは、カスタマイズしてでも対応する必要がある場合があります。

場合によっては、システムの標準機能に取り入れるべきものもあるでしょう。 

② あると便利なもの

業務効率が上がる、作業時間が短くなるなど、メリットが明確なものです。

費用と効果を比較して判断します。

③ 今までやっていたから必要だと思っているもの

ここが一番重要です。

「今までこうしていたから」という理由だけなら、本当に必要なのかをもう一度考えてみます。

新しいシステムの標準機能で業務を変えた方が、結果的にシンプルになる場合もあります。


ベンダーに聞いてほしい5つの質問

カスタマイズを検討するとき、私はユーザー企業に次の質問をしてほしいと思っています。

① 「これは標準機能ではできませんか?」

まず標準機能で代替できないかを確認します。
現時点での標準機能になくても、近い将来のバージョンアップでの対応予定もないかも確認した方が良いかもしれません。(法改正などで必要となる機能など)

② 「このカスタマイズをしない場合、業務はどう変わりますか?」

「できない」で終わらせず、別の方法を聞いてみます。

③ 「バージョンアップした場合、この部分はどうなりますか?」

将来のことを必ず確認します。
バージョンアップ時に、カスタマイズ部分で追加費用が発生する可能性もあります。

④ 「5年間使うと、追加でどんな費用が発生しますか?」

初期費用だけでは判断しません。

⑤ 「このカスタマイズは、本当におすすめですか?」

これが意外と重要です。

ベンダーに、

「技術的にはできます。でも、私はおすすめしません」

と言われたら、むしろその理由を聞いてみてください。

信頼できるベンダーは、何でも「できます」と言うベンダーではありません。


「カスタマイズしないこと」が目的ではない

ここまで読むと、

「では、カスタマイズしない方がいいんですね」

と思われるかもしれません。

しかし、それも少し違います。

大切なのは、

カスタマイズするか、しないかではありません。

大切なのは、

「なぜ、このカスタマイズが必要なのか?」

を明確にすることです。

そのカスタマイズによって、

  • 売上が増えるのか
  • 作業時間が減るのか
  • ミスが減るのか
  • 店舗運営が楽になるのか
  • 顧客サービスが向上するのか
  • 他社との差別化になるのか

こうした効果が明確なら、カスタマイズする意味があります。

逆に、

「今のシステムと同じにしたいから」

だけなら、一度立ち止まった方がいいでしょう。


元ベンダーだからこそ言えること

ベンダー側にいたとき、ユーザー企業から、

「これもできますか?」

と聞かれることはたくさんありました。

そして、技術的には「できます」と答えられるケースもたくさんあります。

しかし、

「できる」と「やった方がいい」は別の話です。

ここは、ユーザー企業にもぜひ理解してほしいところです。

そして、ベンダー側にも、

「できます」

だけではなく、

「できます。ただし、こういうデメリットがあります」

と説明する責任があると思います。

短期的にはカスタマイズを受注した方がベンダーにとって売上になることもあります。

しかし、長い目で見ると、カスタマイズだらけのシステムは、ユーザー企業にとってもベンダーにとっても負担になります。

だからこそ、本当に良いベンダーは、

「これは標準機能で運用を変えた方がいいですよ」

と言ってくれることがあります。

これは、一見すると「仕事を断っている」ように見えます。

しかし実際には、ユーザー企業の将来を考えた提案なのかもしれません。


まとめ

今回のポイントを整理してみましょう。

カスタマイズで注意したいこと

  • カスタマイズそのものが悪いわけではない
  • 「今までこうだったから」は理由として弱い
  • 現在の業務と過去のシステム仕様を混同しない
  • 開発費だけでなく、保守・テスト・教育・バージョンアップまで考える
  • 店舗ごとの特殊仕様を増やしすぎない
  • 現場の要望を全部システムに入れる必要はない
  • 「絶対必要」「便利」「昔からやっている」を分ける
  • 「できる」と「やった方がいい」は別
  • カスタマイズする理由と効果を明確にする

そして、私が一番伝えたいのは、この言葉です。

「カスタマイズしないこと」が目的ではない。
「なぜカスタマイズするのか」を明確にすることが大切。

新しい小売システムを導入するということは、古い小売システムをそのまま新しくすることではありません。

せっかく新しい仕組みを導入するのですから、

「今までのやり方を変えた方が、もっと良くなる部分はないか?」

「この機会に、業務そのものを見直そう」

という視点を持ってほしいと思います。

元ベンダーからのワンポイントアドバイス

システム導入の打ち合わせで、

「今のシステムと同じようにしてください」

という話が出たら、私は一度こう聞いてみることをおすすめします。

「なぜ、今と同じにする必要があるんですか?」

この質問をするだけで、思わぬ発見があるかもしれません。

「昔からそうだから」

という答えなら、さらに一歩踏み込んで、

「もし新しいシステムに合わせて業務を変えたら、どうなりますか?」

と聞いてみる。

そこから、本当の業務改革が始まることがあります。

システム導入は、古い仕事を新しいコンピューターに移す作業ではありません。

仕事そのものを見直す絶好の機会なのです。



次回予告

次回、第12回は少し違った角度から、ベンダー選びについて考えてみたいと思います。

これまで、

  • 提案書を見る
  • デモを見る
  • 営業マンを見る
  • SEを見る
  • 「できます」の中身を見る
  • カスタマイズの必要性を見る

と、さまざまなポイントについてお話ししてきました。

しかし、最終的にシステム導入を成功させるうえで、意外と大きな意味を持つものがあります。

それが、

「ベンダーとの相性」

です。

次回は、

第12回「ベンダー選定で一番重要なのは相性だった」

として、なぜ「相性」がシステム導入の成否に影響するのか、元ベンダーの立場から掘り下げてみたいと思います。

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