前回は、バーコードが当たり前になるまでの苦労話を書きました。

バーコードが店舗の仕事を変えたとすれば、
流通業界全体を変えたのは、
「JCA手順」
だったと言っても過言ではありません。
今ではEDIといえばインターネット経由が当たり前ですが、私がこの業界に入った頃は違いました。
受発注データは、電話回線を使って送っていたのです。
今回は、今ではほとんど語られることのなくなった「JCA手順」のお話です。
JCA手順とは何だったのか
JCA手順とは、
日本チェーンストア協会(Japan Chain Stores Association)が策定した、流通業界向けの通信手順です。
簡単に言えば、
「異なる会社同士が受発注データをやり取りするための共通ルール」
でした。
スーパー。
ドラッグストア。
卸売業。
メーカー。
会社が違えばコンピュータも違います。
そのままでは通信できません。
そこで、
「この順番で通信しましょう」
「この形式でデータを送りましょう」
という約束事を決めたのがJCA手順です。
今でいう通信プロトコルです。
当時の通信は電話回線だった
今ならインターネットで一瞬です。
しかし当時は、
モデムを電話回線につなぎ、
「ピーヒョロロ…」
という独特の接続音とともに通信を開始していました。
若い人には、この音自体が想像できないかもしれません。
通信速度も非常に遅く、
今の感覚なら「本当にこれで仕事になるの?」と思うほどです。
それでも当時としては画期的な仕組みでした。
紙の注文書やFAXに比べれば、はるかに速く、正確だったのです。
「通信できません」が一番怖かった
当時、ベンダーが一番緊張したメッセージがあります。
それは、
「通信できません」
です。
原因はいろいろあります。
- 電話回線の障害
- モデムの故障
- 通信設定ミス
- 接続先のトラブル
原因を一つずつ切り分けなければなりません。
今のようにリモート接続で簡単に確認できる時代ではありません。
現場へ向かい、モデムのランプを見ながら確認することも珍しくありませんでした。
「つながること」が一番大切だった
今のシステムでは、
画面のデザインや操作性が話題になります。
しかしJCA手順の時代は違いました。
重要なのは、
「つながること」
これだけでした。
通信速度が多少遅くてもいい。
画面が地味でもいい。
確実に送受信できること。
それが最優先でした。
流通システムでは、
「速い」より「確実」の方が価値が高かったのです。
日本独自だからこその苦労
JCA手順は日本の流通業界には非常に適した規格でした。
しかし、日本独自だったため、
海外製システムとの連携は簡単ではありませんでした。
その後、
インターネットEDIや国際標準への移行が進み、
徐々にJCA手順は役割を終えていきます。
技術の進歩としては自然な流れでした。
それでも、
何十年にもわたり日本の流通を支えた功績は、とても大きなものです。
技術は変わっても目的は同じ
JCA手順からインターネットEDIへ。
専用回線からクラウドへ。
通信技術は大きく進歩しました。
しかし、
目的は昔も今も変わっていません。
「正しいデータを、正しい相手へ、確実に届ける。」
この考え方は40年前も現在も同じです。
技術は変わっても、本質は変わらないのです。
元ベンダーとして忘れられない音
今でも時々、
モデムの接続音を耳にすると懐かしくなります。
「ピー……ガー……ヒョロロ……」
あの音が聞こえると、
「よし、通信が始まった。」
と安心したものです。
今では静かにデータが流れます。
便利になりました。
でも、あの音を聞きながら通信の成功を祈っていた頃には、どこか人間味がありました。
若いエンジニアに伝えたいこと
今のエンジニアは、
クラウドやAPI、AIなど、非常に高度な技術を扱っています。
それは素晴らしいことです。
でも、その便利な仕組みは、
JCA手順のような昔の技術が積み重なって生まれたものでもあります。
過去を知ることは、単なる懐古ではありません。
「なぜ今の仕組みになったのか」を理解する手がかりになります。
新しい技術だけを見るのではなく、その土台にも目を向けてほしいと思います。
まとめ
JCA手順は、決して派手な技術ではありませんでした。
画面に表示されることもなく、
利用者が意識することもありません。
それでも、
スーパーと卸売業をつなぎ、
店舗と本部を結び、
日本中の受発注を支えていました。
現在では役目を終えつつありますが、
その功績は決して色あせません。
元ベンダーとして振り返ると、
JCA手順は「通信規格」というより、
日本の流通を支えた縁の下の力持ちだったと思います。
そして、その精神は現在のインターネットEDIやクラウドサービスにも確かに受け継がれています。
次回は、
「インターネットEDIが流通業界をどう変えたのか」
というテーマで、電話回線からインターネットへの大転換が、小売システムにどのような革命をもたらしたのかを振り返ってみたいと思います。




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