AI発注ブームを元ベンダーが冷静に見ると

発注・在庫管理

こんにちは。

最近、小売業界では「AI発注」という言葉をよく耳にするようになりました。

「AIが需要を予測して欠品をなくす」
「発注担当者が不要になる」
「在庫を最適化できる」

展示会やメーカーの提案資料を見ると、まるでAIがすべての問題を解決してくれるような印象を受けます。

では、本当にそうなのでしょうか。

20年以上、小売システムの導入に携わってきた元ベンダーとして、今回はAI発注を少し冷静に見てみたいと思います。

AI発注とは何をしているのか

まず、「AI発注」と聞くと、何か特別なことをしているように感じます。

しかし実際には、

  • 過去の販売実績
  • 天候データ
  • 曜日
  • 祝祭日
  • イベント情報
  • 販促情報

などの大量データを分析し、

「明日は何個売れそうか」

を予測している仕組みです。

従来の自動発注が単純な計算ルールを使っていたのに対し、

AIはより多くの要因を考慮しながら予測精度を高めている、

という違いがあります。

つまり、

AI発注は魔法ではなく、『予測の精度を高めた自動発注』なのです。

AIは確かにすごい

ここは素直に認めなければなりません。

AIの予測精度は確実に向上しています。

私がベンダー時代に苦労していた頃には、

「前年同曜日実績」
「移動平均」

程度で予測していたものが、

現在では、

  • 気温変化
  • 降水確率
  • 地域イベント
  • SNSでの話題性

なども考慮できるようになっています。

実際にAI導入によって、

  • 欠品率の改善
  • 廃棄ロスの削減
  • 発注時間の短縮

といった成果を上げている企業も増えています。

ここは間違いなくAIの強みです。

しかし、AIは万能ではない

一方で、

「AIを導入すればすべて解決する」

という期待は危険です。

私が特に気になるのは、

AIへの過度な期待

です。

例えば、

  • 突然の災害
  • 想定外のテレビ放映
  • 急激な社会情勢の変化
  • 地域独特のイベント

こうした出来事は、過去データの延長線上にはありません。

新型コロナの初期を思い出してください。

マスクやトイレットペーパーの需要急増を予測できたAIはほとんどありませんでした。

AIは学習した範囲の予測は得意です。

しかし、

経験したことのない未来を完璧に予測することはできません。

「Garbage In, Garbage Out」は今も変わらない

これは昔からシステム業界で言われている言葉です。

「Garbage In, Garbage Out(ゴミを入れればゴミが出る)」

つまり、

入力データが間違っていれば、結果も間違う。

これはAIでも変わりません。

例えば、

  • 商品マスタの誤り
  • 特売情報の未登録
  • 欠品による販売機会損失
  • 棚替え情報の未反映
  • 廃棄ロスなどの情報の未登録

こうした状態でAIを学習させれば、

当然、予測精度は落ちます。

AIだから自動的に賢くなるわけではありません。

むしろ、

データの精度を維持する運用が、以前より重要になる

のです。

AIは「なぜ」を説明できないことがある

ここも重要なポイントです。

従来の発注ロジックは、

「安全在庫○日分」

「平均販売数×リードタイム」

など、比較的理由がわかりやすいものでした。

しかしAIでは、

「なぜこの発注数になったのか」

を明確に説明できないケースがあります。

いわゆるブラックボックス問題です。

発注担当者からすると、

「なぜ50個発注なの?」

という疑問が残ります。

そして、最終的な責任を負うのは現場です。

説明できない判断を、無条件で信頼するのは簡単ではありません。

AIは担当者を不要にするのか

結論から言えば、

少なくとも現時点では、不要にはならない

と思います。

実際に成功している企業では、

AIを「代替」ではなく「支援」として使っています。

例えば、

AIが推奨発注数を提示する。

担当者が確認する。

必要に応じて修正する。

この形です。

AIによって、

5,000商品の確認が500商品になるかもしれません。

しかし、

最終判断そのものが完全になくなるわけではありません。

本当に変わるのは担当者の役割

AIによって変わるのは、

「発注担当者がいなくなること」

ではなく、

「発注担当者の仕事の中身」

だと思います。

これまでは、

「何個発注するか」

に多くの時間を使っていました。

これからは、

  • AIの提案を評価する
  • 異常値を見つける
  • 売場戦略を考える
  • 販促計画を立てる

こうした仕事の比重が高くなるでしょう。

つまり、

作業者から判断者へ。

これがAI時代の発注担当者の姿なのかもしれません。

元ベンダーとして思うこと

私はこれまで、

EOS、自動発注、需要予測システムなど、さまざまな「次世代システム」が登場する場面を見てきました。

そのたびに、

「これで人はいらなくなる」
「人員を削減できる」

と言われてきました。

しかし現実には、

システムは進化しても、人間の役割はなくなりませんでした。

むしろ、

新しい技術を理解し、活用できる人の価値は高まってきました。

AIも同じだと思います。

AIは非常に強力な道具です。

しかし、

使い方を間違えれば、間違いを高速化するだけの存在にもなり得ます。

まとめ

AI発注は、小売業にとって非常に有望な技術です。

予測精度の向上や業務効率化は、今後さらに進んでいくでしょう。

しかし、

AIは魔法ではありません。

すべてを任せられる万能な存在でもありません。

重要なのは、

AIを信じることではなく、AIを理解して使いこなすこと。

そして、

AIと現場の知識をどう組み合わせるか。

これこそが、これからの小売業の大きな課題になるのではないでしょうか。

元ベンダーとしての結論は、こうです。

「AIは発注担当者を不要にはしない。優秀な発注担当者を、さらに優秀にする道具である。」

次回は、

「システム導入で一番大変なのは機械ではなく人だった」

というテーマで、導入プロジェクトの現場で本当に苦労したことについてお話ししたいと思います。

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