こんにちは。
最近ではAI発注や需要予測システムの話題も増え、
「もうベテランの勘は不要になる」
「誰でも同じ品質で発注できる」
といった話を耳にするようになりました。
確かに、システムの進化は目覚ましいものがあります。
しかし、20年以上にわたり小売システムの導入に携わってきた元ベンダーとして言わせてもらうと、
「発注担当者の勘は不要になる」という考え方は少し危険です。
今回は、「勘」の正体について考えてみたいと思います。
そもそも「勘」とは何なのか
システム導入の打ち合わせで、経営層からよく聞いた言葉があります。
「属人化をなくしたい」
「ベテランの勘に頼った運営をやめたい」
確かにその通りです。
特定の担当者しか発注できない状況はリスクがあります。
しかし、ここでいう「勘」とは、本当に単なる感覚なのでしょうか。
実際には違います。
ベテラン発注担当者の勘とは、
長年の経験によって蓄積された大量の情報処理の結果
なのです。
ベテランは何を見ているのか
あるスーパーの青果担当者は、天気予報を見ながら発注量を調整していました。
「明日は気温が30℃を超えるから、スイカは増やそう。」
別の精肉担当者はこう言いました。
「給料日後の週末だから、焼肉用の肉は伸びる。」
また、あるグロサリー担当者は、
「近くの小学校で運動会があるから、お弁当関連商品を増やす。」
と判断していました。
彼らは決して勘だけで発注していたわけではありません。
- 気温
- 曜日
- 給料日
- 地域イベント
- 過去の経験
- 売場の変化
- 競合店の動向
こうした情報を瞬時に組み合わせて判断していたのです。
これを「勘」と呼ぶのは、少し失礼かもしれません。
システムが得意なこと
一方で、人間にも弱点があります。
疲れることもあります。
思い込みもあります。
忙しければ確認漏れも起きます。
例えば、5,000アイテムの発注をすべて人間が判断するのは現実的ではありません。
システムは、
- 大量データの処理
- 過去実績の分析
- 計算ミスの防止
- 一定ルールでの判断
を得意としています。
人間では到底処理できない量を、短時間で正確に計算できます。
つまり、
「大量の定型業務」はシステムの圧勝
なのです。
人間が得意なこと
では、人間の強みは何でしょうか。
それは、
「例外への対応」
です。
例えば、
- 突然の猛暑
- テレビ番組での紹介
- 地域イベントの開催
- 競合店の閉店
- 災害への備え
こうした出来事は、過去データだけでは十分に予測できません。
私が担当していた店舗でも、テレビで紹介された商品の発注を急遽増やした結果、大きな販売機会を得たことがありました。
逆にシステム任せだった店舗では欠品が続き、
「なぜ発注されていないんだ」
と問題になったこともありました。
人間は、数字にならない情報を活用できるのです。
実は「勘」の精度には差がある
ここで重要なことがあります。
すべての勘が正しいわけではありません。
経験豊富な担当者もいれば、
「なんとなく」
で発注している人もいます。
実際に分析すると、
- システムの方が精度が高い商品
- ベテラン担当者の方が精度が高い商品
が混在しています。
つまり、
勘だから正しいわけでもなく、システムだから正しいわけでもない
のです。
大切なのは、どちらの精度が高いかを検証することです。
理想は「システム+人間」
私が見てきた成功している企業には共通点がありました。
それは、
システムと人間を対立させていない
ことです。
システムが一次発注を行う。
担当者が内容を確認する。
必要な商品だけ修正する。
この運用です。
例えば、
- 定番商品はシステムに任せる
- 特売商品は担当者が確認する
- 季節商品は経験者が判断する
- 新商品は重点管理する
こうした役割分担をしていました。
結果として、
発注時間は短縮され、
欠品も減り、
在庫も適正化されていました。
AIは勘を超えるのか
最近ではAI発注も登場しています。
天候やイベント情報を取り込み、需要予測の精度も向上しています。
将来的には、さらに人間の判断に近づいていくでしょう。
しかし、AIも過去データを学習している点では基本的に同じです。
予測できない出来事への対応には限界があります。
また、
「なぜこの発注になったのか」
を説明できないケースもあります。
最終的に責任を持つのは現場の人間です。
その意味では、
AIが発注担当者を完全に置き換える時代は、まだ先なのではないか
と私は考えています。
元ベンダーとして思うこと
システム導入の現場では、
「人を減らしたい」
という理由で自動発注を導入するケースもありました。
しかし、本当に成果を上げた企業は、
人を減らすためではなく、人を活かすためにシステムを使っていました。
単純作業はシステムへ。
重要な判断は人間へ。
その結果、担当者は売場づくりや販売計画に時間を使えるようになったのです。
まとめ
発注担当者の勘は、本当に不要になるのでしょうか。
私の答えは、
「不要にはならない。ただし、勘だけでもいけない。」
です。
勘は経験に裏打ちされた貴重な資産です。
しかし、人間には限界があります。
一方で、システムは大量処理が得意ですが、現場の空気までは理解できません。
だからこそ、
システムが人間を支援し、人間が最終判断を行う。
これが、これからの小売業における最も現実的な姿だと思います。
「勘か、システムか」
ではなく、
「勘とシステムをどう組み合わせるか」
それこそが、本当に重要なテーマなのではないでしょうか。
次回は、
「AI発注ブームを元ベンダーが冷静に見ると」
というテーマで、AI発注の可能性と限界についてお話ししたいと思います。



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