部門打ちレジからAI発注まで、小売システム進化の40年を振り返る
はじめに
私は20年以上前まで、食品スーパーやドラッグストア向けのシステム開発・導入に携わっていました。
最近、小売DXやAI活用という言葉をよく耳にします。
確かに今の小売システムは非常に高度になりました。
しかし、その進化の過程を知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。
今回は、私が見てきた小売システムの変遷を振り返りながら、
「何が変わったのか」
「何が変わっていないのか」
についてお話ししたいと思います。
部門打ちレジと電話・FAX発注の時代
今では当たり前になったPOSシステムですが、かつては存在しませんでした。
レジには商品情報が登録されておらず、
- 青果
- 精肉
- 鮮魚
- 惣菜
- 一般食品
といった部門コードを打ち込んで精算していました。
そのため、
「牛肉が何パック売れたか」
は分かりません。
分かるのは、
「精肉部門でいくら売れたか」
だけでした。
当然ながら発注も経験と勘が中心です。
商品の発注は、
- 電話
- FAX
が主流でした。
売場担当者が売場を見ながら、
「明日はこれくらい売れそうだ」
と判断して発注していたのです。
POSシステムの登場
小売業に大きな変化をもたらしたのがPOSシステムでした。
POS(Point Of Sale)は販売時点情報管理と呼ばれます。
商品ごとの販売実績が分かるようになり、
- 何が売れたのか
- 何時に売れたのか
- どの店舗で売れたのか
が把握できるようになりました。
今では当たり前ですが、当時としては革命的でした。
それまで感覚で語られていた売場が、数字で語れるようになったのです。
JCA手順とEOS端末の時代
POSデータの活用が進むと、次に求められたのが発注業務の効率化でした。
そこで登場したのがEOSです。
EOS(Electronic Ordering System)は電子発注システムです。
専用のEOS端末を使い、店舗の棚札に記載された「発注点」や「発注ロット」といった
情報を見て、発注端末に発注数を入力します。
発注データは、電話回線経由で本部に集約され、さらに仕入れ先に送信します。
この時代に欠かせなかったのがJCA手順でした。
今の若い人には馴染みがないかもしれませんが、当時の流通業界では標準的な通信方式でした。
電話回線または専用回線を使用してモデムという通信機器を通して、
「ピーーー、ガガガ・・・」
という通信音とともに発注データを送信していました。
その通信速度は、2400bps〜9600bps程度。
現在の高速ネットワークを知る人からすると、かなり牧歌的な世界です。
私が若い頃の、とある企業様にシステムを導入した時のお話しです。
その企業様の、ある店舗だけ店舗から本部への通信が不安定で、よく通信エラーが発生していました。
その事で、企業様からクレームをいただき、調査に入りました。
しかし、いろいろ調べても、設定などに異常はなく、原因がわかりませんでした。
ただ、不思議な事に電話をかけていないのに、受話器から何か声が聞こえてきます。
電話回線が混線しているのではと思い、NTTにも調査を依頼しました。
NTTの局内にモデムを持ち込んで調査するなど、徹底的な調査の結果、判明した原因は
ー モデムがラジオを聴いていた ー
という内容でした。
その店舗の近くに、強い電波を発信するラジオアンテナがあり、その電波をモデムが電話線を通じて受信していたのです。
企業様に報告し、対応策を協議した結果、モデムを鉛の箱に入れることで解決しました。
大変でしたが、貴重な経験でした。
EOB端末の登場
小売業回では、さらに発注作業の効率化と発注精度の向上を目指して
EOB端末を使用した発注方法が、コンビニなどを中心として普及しました。
EOB(Electronic Order Book)端末とは、今で言うタブレット型のパソコンに
発注点・発注ロット以外にも、先週の売上数や曜日別の平均売上数などが表示され
さらに、過去データから計算された推奨発注数が表示され、発注者は棚を見て
コンピュータが計算した発注数を必要に応じて修正して発注数を確定します。
自動発注への入口とも言える発注方法です。

インターネットの登場
1990年代後半から2000年代にかけて、状況は一変します。
インターネットの普及です。
それまで専用回線や電話回線を利用していた業務が、
インターネット経由で行えるようになりました。
システム開発者にとっても大きな転換点でした。
通信コストは下がり、
データ連携は容易になり、
新しいサービスが次々に生まれました。
Wi-Fiとモバイルの時代へ
さらに大きかったのが無線LAN、いわゆるWi-Fiの普及です。
かつて店舗内の端末は有線接続が当たり前でした。
しかしWi-Fiの普及によって、
- ハンディ端末
- タブレット
- スマートフォン
の活用方法も劇的に変化しました。
以前は、発注端末に事前にデータをダウンロードする必要がありましたが、現在ではその必要はありません。
高速なWi-Fiにより、リアルタイムで必要な情報を発注端末に表示することも可能です。
棚の前で在庫を確認しながら発注する。
そんな光景が当たり前になったのです。
コンピュータとネットワークの進化
私がシステム開発をしていた頃、本部サーバーは非常に高価な存在でした。
処理能力も限られていました。
そのため、
- 夜間バッチ処理
- 日次更新
が当たり前でした。
現在ではクラウド技術の発展によって、
リアルタイム処理が一般的になっています。
POSデータも瞬時に本部へ集まり、
経営者がスマートフォンで売上を確認できる時代になりました。
自動発注の実用化
POSデータが蓄積されると、自動発注が現実的になります。
曜日別実績
季節変動
特売情報
在庫情報
これらをもとにシステムが発注数量を計算します。
私が開発に携わっていた時代にも自動発注はありました。
しかし当時は、
「参考値」
という位置付けが強かったように思います。
現在では実運用レベルまで成熟しています。
AIが発注を支援する時代
最近ではAIが活用されるようになりました。
AIは、
- 天候
- 気温
- 曜日
- イベント
なども考慮して需要予測を行います。
ただし私は、
AIが店長を完全に置き換えるとは思っていません。
地域の祭りや学校行事など、
現場が持つ情報は今でも重要です。
AIと人が協力する形が理想ではないでしょうか。
流通BMSが変えたもの
現在の流通業界では流通BMSが広く利用されています。
かつてのJCA手順に代わり、
インターネットを活用した標準EDIとして普及しました。
その結果、
小売業とメーカー、卸売業とのデータ連携は大きく効率化されました。
発注だけでなく、
出荷
請求
支払
まで電子化が進んでいます。
変わったもの、変わらないもの
こうして振り返ると、
通信技術
コンピュータ性能
システム機能
は劇的に進化しました。
40年前と比較すると、データストレージの容量もCPUの処理能力も、1万倍異常になったのではないでしょうか?
しかし変わらないものもあります。
それは、
「必要な商品を、必要な時に、必要な量だけ届ける」
という小売業の本質です。
どれだけAIが進化しても、
どれだけシステムが高度化しても、
この目的は昔も今も変わりません。
おわりに
部門打ちレジから始まり、
POS、
EOS、
インターネット、
Wi-Fi、
クラウド、
AIへ。
小売システムは大きく進化してきました。
しかし、その進化の中心にあったのは常に
「現場をもっと良くしたい」
という思いだったように感じます。
これから先、AIや自動化がさらに進むでしょう。
その未来を考えるためにも、過去を知ることには大きな意味があるのではないでしょうか。



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