シリーズ:【元ベンダーが教える】小売システム導入 成功の法則 第五回
~契約する前から、ベンダーには見えていることがある~
前回は、
というテーマで、大手・中堅・専門ベンダー、それぞれの特徴についてお話ししました。
その中で、
「会社の規模ではなく、自社と相性の良いベンダーを選ぶことが大切」
というお話をしました。
今回は、少し視点を変えてみたいと思います。
これまでの記事では、
「小売企業がベンダーをどう見ればいいのか」
という話をしてきました。
今回は逆です。
「ベンダー側は、お客様の会社をどう見ているのか」
という話です。
実は、ベンダーとして提案活動をしていると、
「この案件は、ちょっと危ないかもしれないな。」
と感じることがあります。
まだ契約もしていません。
システムも決まっていません。
それなのに、
「このプロジェクトは、かなり苦労することになりそうだ」
と感じるのです。
もちろん、ベンダーも仕事ですから、危ないと思ったからといって簡単に逃げるわけにはいきません。
しかし、過去の経験から、
「こういう会社のプロジェクトは、後で大変なことになりやすい」
というパターンがあるのです。
今回は、元ベンダーだからこそ話せる、少し耳の痛い話をしてみたいと思います。
「危ない会社」とは、経営状態が悪い会社ではない
最初に誤解のないようにしておきたいと思います。
ここでいう「危ない会社」とは、
業績が悪い会社とか、
経営状態が危ない会社という意味ではありません。
むしろ、
会社としては非常に優良企業なのに、システム導入プロジェクトだけが危ない
というケースもあります。
問題は会社そのものではありません。
プロジェクトの進め方です。
では、ベンダーはどんなところを見ているのでしょうか。
1.「社長が決めたから」が最初に出てくる
ベンダーが少し不安になる言葉があります。
それは、
「社長がやれと言っているので。」
という言葉です。
もちろん、経営トップがシステム導入を決断すること自体は悪いことではありません。
むしろ、大きなシステム投資には経営者の意思決定が必要です。
問題なのは、
「なぜ導入するのか」が、現場や担当者に共有されていない場合
です。
社長は、
「最新のシステムを入れれば業務効率が上がる。」
と思っている。
情報システム部は、
「老朽化したシステムを更新することが目的。」
と思っている。
店舗側は、
「また新しいシステムを覚えさせられる。」
と思っている。
これでは、プロジェクトがうまくいくはずがありません。
経営者の決断は大切です。
しかし、
経営者の決断を、会社全体の目的に変換する作業
が必要なのです。
2.プロジェクト責任者が決まっていない
これもベンダーが非常に気にするところです。
「今回のプロジェクトの責任者はどなたですか?」
と聞いたとき、
「まだ決まっていません。」
という答え。
これは、かなり心配になります。
システム導入では、
決めなければならないことが山ほどあります。
仕様。
業務運用。
スケジュール。
データ移行。
店舗教育。
テスト。
本番稼働。
そのたびに、
「誰が決めるのか」
が必要になります。
責任者がいなければ、
会議をしても決まりません。
決まらないまま時間だけが過ぎます。
そして、最後になって、
「どうしてこんな仕様になったの?」
という話になります。
プロジェクトには、
最終的に判断できる人
が必要です。
3.「現場にはまだ言っていません」
これも、ベンダー側からすると非常に気になる言葉です。
例えば、
「今度、新しいシステムを導入します。」
と聞いた店舗の担当者が、
「えっ、初めて聞きました。」
という状態。
これは危険です。
システム導入では、
現場の協力が欠かせません。
ところが、経営層と情報システム部だけで話が進み、
現場への説明が最後になってしまう。
すると、
「なぜ、この機能が必要なの?」
「今のやり方の方が簡単じゃない?」
「こんな機能、誰が使うの?」
という反発が出てきます。
そしてベンダーは、
「現場が使ってくれないのはシステムが悪い。」
と言われることになります。
しかし、
システムの問題ではなく、導入の進め方の問題
であることも多いのです。
4.「今の業務は変えたくない」
これも非常に多いケースです。
新しいシステムを導入する。
しかし、
「今の業務は一切変えたくない。」
と言われる。
もちろん、
長年続けてきた業務には、それなりの理由があります。
現場には現場の知恵があります。
だから、
「古いから全部変えましょう。」
というのも乱暴な話です。
しかし、
新しいシステムを入れるのに、今の仕事を一切変えない
というのも無理があります。
例えば、
紙の帳票をそのまま電子化しただけ。
昔の承認ルートをそのままシステムに組み込んだだけ。
何十年も前の例外処理まで全部再現する。
これでは、
「新しいシステムなのに、やっていることは昔と同じ」
ということになってしまいます。
システム導入は、
業務を見直す絶好の機会
でもあります。
5.「今のシステムと全く同じにしてください」
これも、ベンダーがよく聞く言葉です。
「今のシステムと同じことができればいいです。」
一見すると簡単そうです。
しかし、実際にはかなり難しい。
なぜなら、
現在のシステムには、
長年のカスタマイズや、
現場独自の運用が、
大量に積み重なっているからです。
その中には、
「なぜこんな処理があるのか、誰も分からない」
という機能まであります。
それを新システムですべて再現しようとすると、
当然、コストも時間も増えます。
そして、
新しいシステムなのに、古いシステムのコピー
が出来上がってしまいます。
これは非常にもったいないことです。
6.要望を聞くたびに「それも必要」と言う
プロジェクトの途中で、
新しい要望が出てくることは珍しくありません。
「この機能も欲しい。」
「この帳票も必要。」
「この画面も変えてほしい。」
ここまでは普通です。
問題は、
要望に優先順位がないこと
です。
何でも、
「必要です。」
「ないと困ります。」
となってしまう。
すると、ベンダーは、
「では、全部対応しましょう。」
となり、
費用もスケジュールも膨らみます。
ところが、しばらくすると、
「そんなに費用がかかるとは思わなかった。」
という話になる。
これは、ベンダーだけの責任ではありません。
お客様側にも、
「本当に必要なのか?」
を判断する仕組みが必要なのです。
7.意思決定が毎回ひっくり返る
ベンダーが最も疲弊するパターンの一つです。
会議で、
「この仕様で決定しましょう。」
となった。
ところが翌週、
「やっぱり変えたい。」
となる。
そして、
「社長に確認したら違う意見だった。」
となる。
さらにその翌週、
「やっぱり元に戻しましょう。」
となる。
こうしたことが繰り返されると、
プロジェクトは進みません。
もちろん、
途中で変更が必要になることはあります。
問題は、
誰が決めたのかが明確になっていないこと
です。
決定権者が複数いると、
「AさんはOKと言った。」
「Bさんは聞いていない。」
ということが起こります。
だからこそ、
プロジェクト開始時に、
意思決定のルール
を決めておく必要があります。
8.「予算は少なく、要望は最大限」
これはベンダーとして非常に厳しい案件です。
例えば、
「予算はできるだけ抑えたい。」
と言いながら、
「この機能も必要。」
「この連携も必要。」
「この帳票も必要。」
「店舗教育も全部お願いします。」
となる。
もちろん、
コストを抑える努力は必要です。
しかし、
システムには必ずコストがあります。
人が動けば費用がかかります。
カスタマイズすれば費用がかかります。
データ移行にも費用がかかります。
教育にも時間が必要です。
だから、
「安くしてほしい」
だけではなく、
「何を残して、何を捨てるのか」
を決める必要があります。
9.ベンダーを最初から「敵」と考えている
これは少し意外かもしれません。
ベンダーとの交渉では、
厳しく価格交渉することも必要です。
契約条件を細かく確認することも必要です。
ベンダーの言うことをすべて信じる必要もありません。
しかし、
最初から、
「ベンダーは何とかして金を取ろうとしている。」
という姿勢で接すると、
プロジェクトは非常に苦しくなります。
なぜなら、
システム導入は、
ベンダーとお客様が一緒に作っていく仕事
だからです。
敵と味方に分かれてしまうと、
「それは契約範囲外です。」
「それはお客様の責任です。」
「それはベンダーの責任です。」
という話ばかりになってしまいます。
本来は、
「どうすれば解決できるか」
を話し合うべきなのです。
昔、私が担当した企業のご担当者様で
とても、誠実で熱意がある方がいました。
私たち、ベンダーの話しにも
真剣に向き合っていただき
私たちとの話し合いの結果
運用を変更するべきとの結論に至ると
社長や現場と話し合い、調整していただけました。
私たちベンダー側も、普段以上にモチベーションが上がり
結果、お互いの信頼関係も高まり
プロジェクトも成功裡に本稼働を迎えることができました。
企業側とベンダー側が、お互いの努力によって
信頼関係を構築することこそが、プロジェクト成功の
大きな要因であると実感しました。
10.逆に、ベンダーを全面的に信用しすぎる会社も危ない
ここまで読むと、
「では、ベンダーを信頼すればいいのか。」
と思われるかもしれません。
しかし、それも違います。
実は、
ベンダーを信用しすぎる会社も危険です。
「専門家なんだから全部任せます。」
これは、
一見すると良いお客様のように思えます。
しかし、
自社の業務を一番理解しているのは、
ベンダーではありません。
お客様自身です。
ベンダーが知らない、
店舗独自のルール。
長年の経験。
商品の特性。
現場の事情。
こうしたことをベンダーが勝手に判断することはできません。
だから、
「任せる」と「丸投げする」は違います。
信頼する。
でも、自分たちも責任を持つ。
このバランスが重要です。
11.「とにかく早く稼働させてほしい」
これも危険なサインです。
例えば、
「年度末までに必ず稼働させたい。」
という事情は分かります。
しかし、
システム導入では、
テスト。
データ移行。
教育。
店舗でのリハーサル。
障害対応。
など、
どうしても時間が必要です。
それを無視して、
「とにかく日付だけは変えられない。」
となると、
どこかに無理が出ます。
そして、
無理をするのは、
最後には現場です。
稼働初日に、
店舗の人がシステムを使えない。
発注ができない。
売上が送れない。
在庫が合わない。
そんなことになれば、
予定より数週間早く稼働した意味などありません。
システム導入では、日付よりも準備の完成度が重要です。
12.「問題が起きたらベンダーが何とかする」
これも危険です。
もちろん、
システムの不具合はベンダーが責任を持って対応するべきです。
しかし、
業務上の問題まで、
すべてベンダーが解決できるわけではありません。
例えば、
「店舗ごとに発注方法が違う。」
これはシステムだけの問題でしょうか。
「商品マスターが店舗ごとにバラバラ。」
これもシステムだけの問題でしょうか。
「誰が承認するのか決まっていない。」
これもシステムの問題でしょうか。
そうではありません。
システム導入では、
業務側が決めなければならないこと
がたくさんあります。
ベンダーにできることと、
お客様にしかできないこと。
これを理解している会社ほど、
プロジェクトはうまく進みます。
では、ベンダーは何を見ているのか
ここまで、
「危ない会社」の特徴を挙げてきました。
では、逆に、
「この会社なら、きっとうまくいくだろう」
とベンダーが感じる会社には、どんな特徴があるのでしょうか。
実は、それほど難しいことではありません。
良いプロジェクトには「本気の担当者」がいる
私が一番安心するのは、
本気でプロジェクトを成功させようとしている担当者がいる会社
です。
システムに詳しくなくても構いません。
ITの専門家でなくても構いません。
重要なのは、
「このプロジェクトを成功させるのは自分の仕事だ。」
という意識を持っていることです。
分からないことは質問する。
現場の意見を聞く。
社内を調整する。
ベンダーと議論する。
必要なら経営者に説明する。
こういう担当者がいるプロジェクトは強いです。
「厳しいこと」を言える会社も強い
もう一つ、
ベンダー側から見て安心できる会社があります。
それは、
自分たちに都合の悪いことでも、きちんと議論できる会社
です。
例えば、
「その運用では店舗が大変になります。」
「その機能は本当に必要ですか?」
「このスケジュールでは無理があります。」
こうした話に対して、
「分かりました。ではどうすればいいですか?」
と一緒に考えてくれる。
こういう会社は強いです。
システム導入では、
耳の痛い話を避けてはいけません。
ベンダーが本当に恐れているのは「トラブル」ではない
ここまで読んで、
「ベンダーはトラブルが嫌なんでしょう?」
と思われるかもしれません。
もちろん、
トラブルは嫌です。
しかし、
本当にベンダーが恐れているのは、トラブルそのものではありません。
私が一番怖いと思うのは、
「トラブルが起きたときに、お客様とベンダーが一緒に解決できなくなること」
です。
システム導入では、
必ず問題が起きます。
どんなに優秀なベンダーでも、
100%完璧なプロジェクトなどありません。
大切なのは、
問題が起きたとき、
「誰の責任だ?」
と責任を追及するのか。
それとも、
「どうすれば今日中に解決できる?」
と考えるのか。
この違いです。
良いプロジェクトは「お互いに言いたいことが言える」
私は、
良いお客様と良いベンダーの関係とは、
何でも仲良くすることではない
と思っています。
むしろ、
言いたいことを言える関係です。
ベンダーが、
「それは無理です。」
と言える。
お客様が、
「その提案には納得できません。」
と言える。
そして、
「では、どうしましょうか?」
と話し合える。
これが理想です。
まとめ
ベンダーが、
「この案件は危ないかもしれない。」
と感じる会社には、
いくつかの共通点があります。
例えば、
- プロジェクト責任者が決まっていない
- 現場が置き去りになっている
- 意思決定が頻繁にひっくり返る
- 今の業務を一切変えたくない
- 要望に優先順位がない
- 予算は少なく、要求は多い
- ベンダーを最初から敵だと考えている
- 逆に、ベンダーに丸投げしている
- スケジュールだけが先に決まっている
- 問題はすべてベンダーが解決すると思っている
こうした状態では、
どんなに優れたシステムを導入しても、
成功するのは難しくなります。
一方で、
本気でプロジェクトに取り組む担当者がいて、経営層と現場が同じ方向を向き、ベンダーと率直に話し合える会社
なら、
多少の問題が起きても乗り越えられます。
私は20年以上、ベンダー側から多くのプロジェクトを見てきました。
その経験から言えるのは、
システム導入の成功を決めるのは、システムの性能だけではない
ということです。
むしろ、
「人」と「進め方」
の方が大きな影響を与えることがあります。
だから、もしこれからシステム導入をするのであれば、
ベンダーに、
「御社は何ができますか?」
と聞くだけではなく、
自分たちにも、
「私たちは、このプロジェクトを成功させる準備ができていますか?」
と問いかけてみてください。
これは、ベンダー選びと同じくらい重要なことだと思います。
もしベンダーから、
「このスケジュールでは、少し厳しいと思います。」
「この機能は、本当に必要でしょうか?」
「この運用は、見直した方がいいと思います。」
と言われたら、
「ベンダーがやりたくないだけだ。」
と決めつけないでください。
もしかすると、
そのベンダーは、プロジェクトが失敗する可能性を感じているのかもしれません。
良いベンダーは、
お客様の言うことを何でも「はい」と受け入れる会社ではありません。
時には、
「それはやめた方がいいです。」
と言ってくれる会社です。
そして、お客様側も、
そうした意見に耳を傾ける。
この関係ができれば、
システム導入はずっと成功しやすくなります。
システム導入は、
「ベンダーに仕事をしてもらうこと」
ではありません。
ベンダーと一緒に、会社の未来の仕事の仕組みを作ることです。
次回は、
「ベンダーの提案書で必ず見るべき5つのポイント」
についてお話しします。
提案書には、ベンダーが「見せたいこと」がたくさん書かれています。
しかし、本当に見るべきなのは、
「書かれていること」だけではありません。
元ベンダーの立場から、提案書を見るときのポイントを具体的にお話ししたいと思います。


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