見積書では見えない導入コスト

システム導入

シリーズ:【元ベンダーが教える】小売システム導入 成功の法則 第九回

~「システムの値段」だけで導入費用を判断してはいけない~

前回は、

「営業マンではなくSEを見るべき理由」

というテーマで、ベンダー選定では会社や営業担当者だけを見るのではなく、実際にプロジェクトを担当するSEやプロジェクトマネージャーを見ることが重要だ、というお話をしました。

そして今回から、第3章です。

第3章 導入プロジェクトで失敗しないために

ここからは、

「ベンダーを選んだ後、どうすれば導入で失敗しないのか」

という話に入っていきます。

その第1回目が、

「見積書では見えない導入コスト」

です。

システム導入を検討するとき、当然ですが、

まず気になるのは、

「いくらかかるのか?」

ですよね。

ベンダーから見積書が出てきます。

例えば、

  • システム費用 5,000万円
  • 導入費用 1,000万円
  • ハードウェア 2,000万円

合計8,000万円。

「なるほど、8,000万円か。」

となります。

ところが、実際にプロジェクトが始まると、

「この作業には別途費用が必要です。」

「このデータの整理はお客様側でお願いします。」

「この機能は標準では対応できないので追加開発になります。」

「店舗教育には別途費用がかかります。」

といった話が出てくる。

そして、

「最初の見積もりと話が違うじゃないか!」

となる。

もちろん、本当にベンダーの見積もりが甘かったケースもあります。

しかし、元ベンダーの立場から見ると、

最初の見積書に書かれていないコストは、決して珍しいものではありません。

そして、その中には、

ベンダーが隠していたのではなく、

そもそも小売企業側が「コスト」と認識していなかったもの

もかなりあります。

今回は、そこを掘り下げてみたいと思います。


「システムの値段」と「導入にかかるお金」は違う

まず最初に、

ここを分けて考えてください。

システムそのものの価格

と、

システムを会社で使える状態にするまでの費用

は別物です。

例えば、新しいPOSシステムを導入するとします。

POS端末を買った。

ソフトウェアも買った。

これで終わりでしょうか。

もちろん、終わりではありません。

商品マスターを登録する。

価格を設定する。

店舗を登録する。

従業員を登録する。

既存システムからデータを移行する。

ネットワークを準備する。

レジ担当者を教育する。

店舗でテストする。

本番稼働する。

問題が起きたら対応する。

つまり、

「買ったシステムを、実際の仕事で使える状態にする」

までに、さまざまな作業が必要なのです。


見積書の「導入費用」に何が含まれているのか

ここで注意してほしいのが、

見積書にある、

「導入支援費用」

という項目です。

例えば、

導入支援費用 1,500万円

と書いてあったとします。

これだけでは、

何をしてくれるのか分かりません。

要件定義なのか。

設定作業なのか。

データ移行なのか。

テスト支援なのか。

店舗教育なのか。

本番稼働支援なのか。

障害対応なのか。

すべて含まれているのか。

一部だけなのか。

だから、

「導入支援費用には、具体的にどこまで含まれていますか?」

と聞く必要があります。


見積書の「一式」は要注意

私がベンダー側にいた頃、

見積書にはよく、

「○○費 一式」

という書き方がありました。

これは見積書を簡潔にするためには便利です。

しかし、

発注する側からすると、

かなり分かりにくい。

例えば、

データ移行費 一式 500万円

と書かれていたとします。

では、

  • 何件まで?
  • どのデータが対象?
  • データの加工は?
  • データのクレンジングは?
  • 検証は?
  • 移行リハーサルは?
  • 本番移行は?

どこまで含まれているのでしょうか。

ここが重要です。


① データ移行という「見えないコスト」

システム入れ替えで、

非常に大きな問題になるのが、

データ移行

です。

例えば、

商品マスターが10万件ある。

取引先マスターが5,000件ある。

店舗マスターが500店舗ある。

さらに、

過去の売上データ、

在庫データ、

発注データ、

顧客データなどがある。

「これを新システムに移してください。」

と言えば、

簡単そうに聞こえます。

しかし、実際には、

データをそのまま移せるとは限りません。


古いシステムのデータは、きれいとは限らない

例えば、

旧システムの商品コードが、

「12345」

だったとします。

新システムでは、

「A-12345」

という形式になっているかもしれません。

すると、

変換が必要です。

さらに、

「もう販売していない商品」

が大量に残っているかもしれません。

「同じ商品なのに、登録方法が違う。」

ということもあります。

こうしたデータを整理する作業を、

データクレンジング

と呼びます。

そして、この作業には、

かなりの人手がかかります。


データを「移す」より「整理する」方が大変

元ベンダーとして、

何度も見てきたのがこれです。

「データ移行って、コピーするだけじゃないんですか?」

違います。

実際には、

コピーする前の整理の方が大変

なのです。

古いデータを確認する。

不要なデータを削除する。

コードを変換する。

重複を確認する。

新システムの形式に合わせる。

テストする。

エラーを修正する。

再度テストする。

そして本番移行。

これだけの作業があります。


② 現場の人件費というコスト

次に見落とされやすいのが、

自社社員の人件費

です。

これは、

見積書にはほとんど出てきません。

例えば、

プロジェクトメンバーとして、

本部の社員が10人参加するとします。

毎週2回、3時間の会議。

さらに、

資料確認。

業務整理。

テスト。

店舗との調整。

教育。

これが半年間続いたらどうでしょう。

その人たちは、

当然、

普段の仕事もあります。

つまり、

システム導入によって、

通常業務に使える時間が減る

のです。


「無料の社内作業」は存在しない

これは非常に重要です。

会社の社員だから、

「社内作業は無料」

と思ってしまいがちです。

でも、

その人がシステム導入に100時間使えば、

100時間分、

別の仕事ができなくなります。

店舗の店長が、

システムテストに20時間使えば、

20時間分、

店舗運営に使える時間が減ります。

つまり、

社内の人件費も立派な導入コスト

なのです。


③ 店舗教育のコスト

小売業では、

ここが特に大きいと思います。

本部だけなら、

まだ人数は限られます。

しかし、

店舗が100店舗、200店舗、500店舗となると、

話が変わります。

新しいシステムの操作を教える必要があります。

店長。

副店長。

発注担当者。

レジ担当者。

場合によっては、

パート・アルバイトまで対象になります。


「マニュアルを作れば終わり」ではない

教育用のマニュアルを作る。

それだけでは、

現場は使えるようになりません。

実際に操作してもらう。

質問を受ける。

間違った操作を修正する。

もう一度やってもらう。

そして、

店舗ごとの疑問に答える。

これが必要です。

さらに、

「新しいシステムを覚える時間」

そのものが、

現場の負担になります。

だから、

教育費用だけでなく、教育に使う時間もコスト

として考える必要があります。


④ 店舗側の「二重運用」というコスト

新システムへの移行期間には、

旧システムと新システムを、

一時的に並行して使うことがあります。

例えば、

旧システムで発注。

新システムでも発注。

両方を確認する。

という運用です。

これは、

かなり大変です。

単純に、

仕事が2倍になります。

もちろん、

本番稼働前の検証として必要な場合もあります。

しかし、

長期間続くと、

店舗の負担は非常に大きくなります。


⑤ ハードウェア・ネットワークのコスト

システム本体だけを見ていると、

意外と忘れてしまうのが、

周辺機器やネットワーク

です。

例えば、

  • POS端末
  • ハンディ端末
  • バーコードスキャナー
  • プリンター
  • 無線LAN
  • ルーター
  • ネットワーク回線
  • バックアップ回線
  • UPS

などです。

店舗によっては、

電源工事や、

ネットワーク工事まで必要になることがあります。


⑥ 本番稼働時の「立ち会いコスト」

システム導入では、

本番稼働の日が、

非常に重要です。

特に小売業では、

店舗を止めるわけにはいきません。

夜間に切り替える。

早朝から確認する。

場合によっては、

複数店舗に担当者を配置する。

こうした作業があります。

当然、

ベンダー側にも人件費がかかります。

しかし、

お客様側にも、

立ち会う人が必要です。

つまり、

ここにもコストがあります。


⑦ 「本番稼働後」の対応コスト

システムが稼働した。

これで終わり。

……ではありません。

むしろ、

ここからが本当のスタートです。

実際の店舗で使い始めると、

必ず質問が出ます。

「この操作はどうするの?」

「昨日までできたことができない。」

「この帳票はどこにある?」

「この商品だけ発注できない。」

こうした問い合わせが、

一気に増えることがあります。

これを、

稼働後支援

としてどこまでベンダーが対応するのか。

これも事前に確認しておく必要があります。


⑧ カスタマイズ費用

これは皆さんも想像しやすいでしょう。

「この機能を追加してほしい。」

「今のシステムと同じ画面にしてほしい。」

「この帳票も必要。」

こうした要望が増えると、

当然、

開発費用が増えます。

しかし、

本当に怖いのは、

初期費用だけではありません。

カスタマイズした部分は、

将来のバージョンアップにも影響します。

つまり、

導入時に払うお金だけではなく、将来の保守コストまで増える可能性がある

のです。


⑨ システム導入に伴う「業務改革」のコスト

新しいシステムを入れると、

業務そのものを変える必要が出てくる場合があります。

例えば、

今まで紙で行っていた作業を、

システムに変更する。

店舗ごとに違っていた発注ルールを、

統一する。

商品マスターの登録方法を、

本部で統一する。

こうした改革には、

社内での話し合いが必要です。

つまり、

システム導入費用とは別に、「会社を変えるためのコスト」

が発生します。


「ベンダーに払うお金」だけがコストではない

ここまでの話を整理すると、

システム導入には、

大きく分けて、

ベンダーに支払うコスト

  • ソフトウェア
  • ハードウェア
  • 導入支援
  • 開発
  • データ移行
  • 教育
  • 保守

などがあります。

一方、

自社が負担するコスト

  • プロジェクトメンバーの時間
  • 現場のテスト時間
  • 店舗教育
  • データ整理
  • 業務変更
  • 会議
  • 本番稼働対応

などがあります。

この両方を考えないと、

本当の導入コストは分かりません。


「一番安いベンダー」が本当に安いとは限らない

例えば、

A社 8,000万円

B社 9,000万円

C社 1億円

という見積もりが出たとします。

普通なら、

「A社が一番安い。」

と思います。

しかし、

A社は、

データ移行が一部別料金。

店舗教育が別料金。

追加開発が別料金。

稼働後支援が別料金。

だったとします。

一方、

C社は、

それらがほぼ含まれている。

すると、

単純な見積金額だけでは、

比較できません。


「総額」ではなく「総コスト」で考える

私は、

「総額」と「総コスト」は違う

と思っています。

総額とは、

ベンダーから出てきた請求金額。

総コストとは、

会社がそのシステム導入のために負担する、

すべてのコスト

です。

例えば、

ベンダーへの支払いが1億円。

社内人件費が3,000万円。

教育や店舗対応が1,000万円。

機器やネットワークが2,000万円。

すると、

会社としての総コストは、

1億6,000万円です。

もちろん、これは単純な例です。

しかし、

こうした視点で考えることが大切なのです。


では、見積段階で何を確認すればいいのか

では、

「後から費用が増えるのを防ぐにはどうすればいいのか?」

という話です。

私は、

見積書をもらったら、金額だけではなく「範囲」を確認する

ことをおすすめします。

例えば、

データ移行

「どのデータが対象ですか?」

教育

「何店舗、何人まで含まれますか?」

カスタマイズ

「どこまでが標準で、どこからが追加ですか?」

本番稼働

「稼働当日は何名来てもらえますか?」

稼働後支援

「何日間、どのような体制で支援してもらえますか?」

こうした質問をしてください。


「含まれていないもの」を聞く

そして、

一番おすすめしたい質問があります。

それは、

「この見積金額に含まれていない作業は何ですか?」

です。

これは非常に重要です。

ベンダーに、

「含まれているもの」

を説明してもらうのは普通です。

しかし、

「含まれていないもの」

を聞く。

すると、

「ネットワーク工事は別です。」

「データクレンジングはお客様側です。」

「店舗教育は基本的な説明のみです。」

「追加帳票は別途です。」

など、

今まで見えていなかった部分が出てきます。


「もし○○だったら?」と聞いてみる

さらに、

シナリオで質問してみるのもおすすめです。

「もしデータ移行で不整合が見つかったら、追加費用になりますか?」

「もし店舗教育を追加でお願いしたら、いくらですか?」

「もし本番稼働が1か月延期になったら、費用はどうなりますか?」

「もし標準機能では対応できないことが分かったら、どうなりますか?」

こうした質問をしておけば、

後から、

「そんな話は聞いていません。」

ということが減ります。


重要なのは「追加費用をゼロにすること」ではない

ここは誤解しないでほしいところです。

私は、

「追加費用が発生するベンダーは悪い」

と言いたいわけではありません。

システム開発では、

途中で新しい要件が出ることがあります。

当初想定していなかった問題が、

データ調査で見つかることもあります。

それに対応するための追加費用が発生することは、

当然あります。

問題なのは、

何が追加になるのかが、最初から分からないこと

です。

だから、

追加費用をゼロにするのではなく、

「追加費用が発生する条件を明確にする」

ことが重要なのです。


ベンダー側も「見積もり」を作るのは難しい

ここで少し、

ベンダー側の事情もお話ししましょう。

実は、

契約前の段階で、

すべての作業量を正確に見積もることは、

かなり難しいのです。

まだ要件が固まっていない。

データも詳しく調べていない。

現場の運用も全部見えていない。

それなのに、

「導入費用はいくらですか?」

と聞かれる。

ベンダーは、

限られた情報の中で、

見積もりを作らなければなりません。

だから、

初期見積もりが100%正確であることを期待するのは難しい

のです。


だからこそ「見積もりの前提」が重要

ベンダー側が、

「この見積もりは、○○を前提にしています。」

と書いていたら、

そこをよく読んでください。

例えば、

「既存データが新システムの形式に整備されていることを前提とします。」

と書いてある。

これは、

非常に重要な条件です。

もし実際には、

データが整理されていなかったら、

追加作業が必要になります。

つまり、

見積金額を見るときは、その金額だけではなく「その金額になる条件」を見る

ことが大切です。


私なら「5年間の総コスト」で考える

システムは、

導入して終わりではありません。

5年、

10年と使うことになります。

だから、

私は、

初期導入費用だけでなく、5年間くらいの総コスト

で比較することをおすすめします。

例えば、

  • 初期導入費
  • ソフトウェア利用料
  • 保守費
  • クラウド利用料
  • ハードウェア更新
  • バージョンアップ
  • 追加開発
  • 教育
  • 運用人件費

などです。

もちろん、

すべてを正確に予測することはできません。

それでも、

「最初の金額だけで決めない」

という意識は非常に重要です。


見積書は「価格表」ではなく「プロジェクトの設計図」

私は、

見積書を見るとき、

こう考えると分かりやすいと思っています。

見積書は、

「いくら払うか」だけを見る資料ではありません。

その金額の中に、

「何を、どこまでやるのか」

が表れています。

だから、

見積書を見れば、

そのベンダーが、

今回のプロジェクトを、

どこまで理解しているのかも、

ある程度分かります。


まとめ

システム導入では、

「一番安い会社を選ぶ」

という考え方だけでは、

失敗する可能性があります。

重要なのは、

「何に、いくらかかるのか」

を理解することです。

そして、

「ベンダーに支払う費用」だけでなく、「自社が負担する費用」も含めて考える

ことです。

特に注意したいのは、

  • データ移行
  • データクレンジング
  • 店舗教育
  • 社内プロジェクトメンバーの人件費
  • テスト
  • 店舗での二重運用
  • ハードウェア・ネットワーク
  • 本番稼働対応
  • 稼働後支援
  • カスタマイズ

などです。

そして、

見積書を受け取ったら、

ぜひ、

「この金額に含まれていない作業は何ですか?」

と聞いてみてください。

さらに、

「この金額が増える可能性があるのは、どんな場合ですか?」

と聞いてください。

この二つの質問だけでも、

見積書の見方がかなり変わると思います。

ベンダーからのワンポイントアドバイス

ベンダーから、

「導入費用は1億円です。」

という見積書が出てきたとします。

そこで、

「高いな。」

「安いな。」

と判断する前に、

こう聞いてみてください。

「1億円を払ったら、私たちは何をしなくてもシステムを使い始められる状態になりますか?」

おそらく、

「いえ、お客様側で○○をお願いします。」

という話が出てくるでしょう。

それでいいのです。

その「○○」こそが、

見積書には見えにくい、

本当の導入コスト

だからです。

そして、

もう一つ。

見積書に書かれている金額が高いからといって、

必ずしも高いとは限りません。

逆に、

安いからといって、

必ずしも得とは限りません。

大切なのは、

「その金額で、どこまでの仕事をしてくれるのか」

です。

システム導入では、

「いくらで買うか」ではなく、「いくらで使える状態になるのか」

を見る。

これが、

元ベンダーとしておすすめしたい、

見積書の見方です。


次回は、

『できます』という言葉を信じてはいけない理由

についてお話しします。

コンペや打ち合わせで、

「その機能はできますか?」

と聞くと、

営業担当者から、

「はい、できます。」

と答えが返ってくる。

これは、

とても安心する言葉です。

しかし、

その「できます」には、

実は、

「標準機能でできます」

という意味の場合もあれば、

「追加開発すればできます」

という意味の場合もあります。

さらに、

「技術的にはできますが、あまりおすすめしません」

というケースまであります。

次回は、

この「できます」という言葉の裏側を、

元ベンダーの視点から掘り下げてみたいと思います。

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